人が自分の「正義」にやたらこだわる時は往々にして、その裏の本心には薄汚れた欲望がふくれあがっているもの、というわけですね…。
さやかには正義の味方をやる能動的な理由があったわけではなく、成り行きでそうなってしまって取り返しがつかない以上、そうやって自分を正当化しなければ自分が保てないというだけのことなのです。己の悪を認めているほむら以外は、この作品の魔法少女はみんな自己正当化の論理を振りかざします。もう既に取り返しのつかない選択をしてしまった後で、もう間違いを認めてやり直すことなど出来ないから。マミさんの正義も、杏子の合理主義も、さやかと同様魔法少女としての余生を送るための自分への言い訳でしかありません。
さて、前回のラストでさやかと杏子の戦いに割って入ったほむら。当て身一発でさやかを昏倒させ、杏子に対してはあえてフルネームを呼んで牽制します。さやかに挑戦する前にじっくり下調べをしていたように意外と戦いに際して慎重な杏子は、彼我の情報の非対称性を悟って不利と判断し、引き上げます。
戦いが中断されて安心するまどかを睨みつけるほむら「どこまであなたは愚かなの」
去っていくほむらを見送りながらキュゥべえ「なんにせよ、彼女が何かを企んでいるのは確かだ!」
お前が言うな。
その夜。自宅で魔法を使いすぎて汚れたソウルジェムをグリフシードで浄化するさやか。すっかり穢れが蓄積してこのままだと孵化しかねないグリフシードを、キュゥべえは背中の口(口だったのかあれ!)で喰って処理します。今まで使っていたグリフシードは初陣で倒した魔女のものですから、次の魔女を狩らなければ今後ソウルジェムを浄化することは出来ません。才能・経験・グリフシードの数、どれをとっても杏子に勝ち目のないさやか。だったら、ものすごい才能を秘めたまどかを契約させればいいとキュゥべえはささやくのでした。
深夜のゲーセンでDDRにいそしむ杏子。そこへほむらがやってきて、意外にも共闘を持ちかけます。ほむらから見れば杏子の方がこの町の魔法少女にふさわしいと。条件はさやかの対処をほむらに任せて手を出さないこと。「あんた何物だ? いったい何が狙いなのさ?」「二週間後、この町に『ヴァルプルギスの夜』が来る」「何故わかる」「それはヒミツ。ともかく、そいつさえ倒せたら私はこの町を出て行く。後はあなたの好きにすればいい」
地道に魔女探しを続けるさやかのところへやって来たまどかは、杏子と話し合うべきだと提案します。さやかはもう杏子とは殺し合いの関係になっていること、杏子の利己主義は大切な人を守るために魔法少女になった(本当?)自分の正義と相容れないことをまどかに告げ、その提案を拒否するのでした。マミさんを見殺しにしてグリフシードを横取りした(誤解です)と、ほむらのことも激しく憎んでいるさやか。さやかを突き動かすのは二人の魔法少女への激しい憎悪であって、さやかの語る正義はだんだんとそのための大義名分でしかなくなってきていました。
「今のさやかじゃ暁美ほむらにも佐倉杏子にも勝ち目はない」とまどかに告げるキュゥべえ。
深夜。寝付けないまどかは仕事で遅く帰宅して晩酌中のゴトゥーザママに、詳細はぼかしてさやかのことを相談します。正しいことをやっているはずなのに不幸になっていく友人の話。
正しさの陥穽に陥っている人を救いたいときには、逆に自分が間違ったことをしてでも救うという手もあると言うゴトゥーザ様。
「ズルい嘘ついたり、怖いものから逃げ出したり…でもそれが、後から考えてみたら正解だったってことがある。本当に他にどうしようもないほどドン詰まりになったら、いっそ、思い切って間違えちゃうのもテなんだよ」「それがその子のためになるって、わかって貰えるかな…」「わかって貰えないときもある。特にすぐにはね。言ったろ?きれいな解決じゃないって。その子のことを諦めるか、誤解されるか、どっちがマシだい?」
正義にしがみついている人を正しさで諭そうとしても無理です。極端な正義を振りかざす人の尖鋭化した「正しさ」には一般人レベルの正しさでは対抗できません。相手の価値観の土俵に乗った時点で負けは決まっています。でも、実際にはその人が抱えている問題はそんな「正しさ」とは全く関係のないところにあったりするものです。ゴトゥーザ様が言いたいのは、あえてこっちがその「正しさ」の前提を「間違った行動」で突き崩して、硬直した「正しさ」を無効にした上でその人の抱えている問題を解決しようということなのでしょう。いいこと言うお母さんだなあ。
ネットで散々うざい子呼ばわりされているまどかですけど、ちゃんと人に相談できたり頼ったりできるところはえらいと思いますよ。自分の弱さやズルさをちゃんと認めているし。
翌日、さやかが上條くんの見舞いにいくと病室はもぬけの殻。回復が早かったので予定より早く退院したとのこと。上條くんの自宅の前で漏れ聞こえてくるバイオリンの音を聞きながら、それで自分を納得させようとするさやか。見返りを求めた時点で、さやかの正義は全て崩れ去ってしまいます。だから上條くんがあまりにすげない態度を取っても、それを責めるようなことを考えることだけは絶対してはならないのです。
そんなさやかの内面を見透かしてあざ笑うかのように現れる杏子。「魔法ってのはね、徹頭徹尾自分だけの望みを叶えるためのもんなんだよ! 他人のために使ったところでろくなことにはならないのさ…巴マミはそんなことも教えてくれなかったのかい?」いや実はマミさんもそういってたんですけどね。「今すぐ乗り込んでいって、坊やの手も足も二度と使い物にならないくらいにツブしてやりな。あんたなしでは何も出来ない身体にしてやるんだよ。そうすれば坊やは今度こそあんたのもんだ。身も心も全部ね」
自分がツブす相手のことは徹底的に探りを入れるのが杏子の流儀のようですが、それにしてもよくさやかのことを観察しているものです。まあ、さやかの秘めた欲望なんてあまりに判りやすすぎると言ってしまえばそれまでですが。
きれいごとの裏に隠された欲望を面白がって露悪的に暴き立ててみせることほど人を怒らせることはありません。さやかにとってはもう杏子は殺してでも黙らせておかないといけない相手です。確かにさやかの正義の裏には上條くんへの利己的な欲望があるのですが、それでもさやかはきれいごとの正義にすがってでも歯を食いしばって見返りを求める心を抑えているのですから。正義が貫けなくなれば、今のさやかを支える全てが崩れ去ってしまいます。
杏子って口で言うことはけっこうエグいですが、相手が油断してる隙に闇討ちとか基本的に考えない、正面から挑発して勝負を吹っかけるタイプで、悪役としては気持ちがいいですね。ほむらとのコンビもなにげにお似合いです。
さやかの処理をまかされていたほむらが介入して来たため、さやかとの決闘はほむらがやることに。
たとえ間違ったことをしてでも、大切な友だちを救いたい。キュゥべえに呼ばれて決闘の場に駆けつけたまどかが取った行動は、決闘の前に、さやかを負けさせること—さやかのソウルジェムを捨てて、魔法少女に変身できなくすること—でした。陸橋から投げ捨てられたソウルジェムは、トラックの荷台に落ちてそのまま運ばれていきます。
しかし、まどかの取った行動は予想の斜め上をいく間違え方をしていたのです。
顔色を変えて瞬間移動を繰り返しトラックを追うほむら。さやかはまどかに抗議しようとしたまま倒れ、動かなくなります。
「今のはまずかったよ、まどか。よりにもよって友だちを放り投げるなんてどうかしてるよ」とキュゥべえ。
首をつかんでさやかの身体を持ち上げた杏子が叫びます。「どういうことだおい…こいつ、死んでるじゃねえかよ!」
「君たち魔法少女が身体をコントロールできるのは、せいぜい100m圏内が限度だからね」
さやかちゃんを死なせないでと泣き叫ぶまどかに対して、心底つき合いきれないとばかりにため息をつくキュゥべえ。
「まどか、そっちはさやかじゃなくてただの抜け殻なんだって。さやかはさっき、君が投げて捨てちゃったじゃないか。元の人間と同じ、壊れやすい身体のままで魔女と戦ってくれなんて、とてもお願いできないよ。君たち魔法少女にとって、元の身体なんていうのは外付けのハードウェアでしかないんだ。君たちの本体としての魂には、魔力をより効率よく運用できるコンパクトで安全な姿が与えられているんだ。魔法少女との契約を取り結ぶボクの役目はね、君たちの魂を抜き取ってソウルジェムに変えることなのさ」
さすがの杏子もこれには驚きます。
「それじゃあたしたち、ゾンビにされたようなもんじゃないか!」
杏子やまどかの反応にやれやれという感じのキュゥべえ。
「わけがわからないよ。どうして人間はそんなに、魂の在処にこだわるんだい?」
息を切らせてソウルジェムを取り返して来たほむらが、さやかの屍体にソウルジェムを握らせます。びくっ、と反応して意識を取り戻すさやか。「何? なんなの?」
続く。
やられましたね。先週からの平成仮面ライダー展開は、こっちのサプライズから目を逸らすための壮大なミスリードだったんですね。あんたの本体はそのiPhoneなんでBluetoothの圏内から離れないでくださいね、とか言われたらいや過ぎます。所持品に魂を入れられてしまうってどんなホラーですか。何となく水木しげるの世界みたいになってきました。
この作品世界での魔法少女の地位も地に墜ちすぎた感がありますが、ここまでひどい扱いでもうまどかが本当に魔法少女になる日が来るのかさえ判らなくなってきました。なったらそこで終了ですよ人生。それでも世のため人のためになるとしたらものすごい自己犠牲ですけど、悲し過ぎますね。
キュゥべえが契約集めまくってるのはニセモノの魔法少女で、まどかは真の魔法少女になる、とかならまだ救いがありますけど、何となくこの作品世界はそんな甘さを許容しそうにありません。しかし、そんな中でもオープニングだけは進化を続けていて、まどかの変身シーンも1カットまるまる直っていました。しかもさらに喜びと幸せに満ちた感じに。まどかの変身だけソウルジェムの介在しない変身なうえに、もう一人の「理想の自分」を自らの中に取り込むことで魔法少女になっていて、他の魔法少女たちの変身と根本的に違うんですよね。
本編との乖離がもはや覆いようもなくなって来たオープニングですけれど、なんの意味があるんでしょう。ただのフェイクか、こうだったらいいのにというまどかの願望か。気になります。まどかの力で今の狂った世界がリセットされて、最終回にはオープニングのような幸せ魔法少女の世界が実現する、なんてナシですよ? ちょっと楽しみな気もしますけど。
とりあえずまどかはさやかの「ほむらマミさん見殺し疑惑」を解消してあげてください。ほむら以外で真相を知ってる生存者はあなただけなんですから。
中盤のゴトゥーザママとまどかの会話シーンは雰囲気といい台詞といいとてもいいシーンで、ゴトゥーザ様の語る人生訓も非常に含蓄のあるいいものだっただけに、それを自分なりに咀嚼して実行してみたまどかの行動が、もう少しで取り返しのつかない結果を招くところだったという皮肉がひど過ぎます。
こんだけ酷くしながら、基本的には良心とか愛情の側に軸足を置いてニヒリズムや冷笑の側に行かないあたりのバランスはいいですね。露悪主義で冷笑的なだけのフィクションってあまり好きじゃないもので。
次回
「本当の気持ちと向き合えますか」
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